研究系及び研究施設の現状 209
鈴 木 敏 泰(助教授)
A -1)専門領域:有機合成化学
A -2)研究課題:
a) 電界効果トランジスタのための有機半導体の開発 b)有機 E L 素子のため高効率燐光錯体の開発
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) ペンタセン(C22H14)は平面的な芳香族炭化水素であり,有機トランジスタのp型半導体として最も高い移動度を記 録している。このペンタセンと相補回路やp-nヘテロ接合を形成するとき,対になるn型半導体はペンタセンとよく 似た物理的・電気的性質を持つことが望ましい。フッ素は最も電気陰性度が高く比較的サイズの小さい元素である ため,パーフルオロ化はサイズをあまり変えることなく p 型半導体を n 型半導体に変換する効果的な方法である。 我々は最近,パーフルオロペンタセン(C22F14)の合成,キャラクタリゼーション,単結晶X線解析,および有機トラン ジスタの作製を行った。パーフルオロペンタセンは,ペンタセンより電子親和力が高く,HOMO-L UMOギャップは 小さい。単結晶ではへリングボーン構造をとり,分子間で短い炭素−炭素コンタクトおよびπスタッキングが見ら れた。パーフルオロペンタセンは n 型半導体としてトランジスタ動作を示し,0.2 cm2/V s 以上の移動度を持つこと が分かった。また,ペンタセンとのバイポーラトランジスタおよびC MOS ではこれまでの有機半導体には見られな い優れた性能を示した。
b)ホール輸送性エチルフェニルカルバーゾルおよび電子輸送性エチルフェニルトリアゾールを単位とするデンドロ ンを合成し,これによりイリジウム燐光発光錯体を修飾した。0世代から2世代までのデンドリマーは有機溶媒に よく溶け,スピンコートにより良質のアモルファス膜を形成した。現時点で,量子収率は 8% を超えている。
B -1) 学術論文
Y. INOUE, S. TOKITO, K. ITO and T. SUZUKI, “Organic Thin-Film Transistors Based on Anthracene Oligomers,” J. Appl. Phys. 95, 5795–5799 (2004).
Y. SAKAMOTO, T. SUZUKI, M. KOBAYASHI, Y. GAO, Y. FUKAI, Y. INOUE, F. SATO and S. TOKITO,
“Perfluoropentacene: High-Performance p-n Junctions and Complementary Circuits with Pentacene,” J. Am. Chem. Soc. 126, 8138–8140 (2004).
B -3) 総説、著書
時任静士、井上陽司、阪元洋一、鈴木敏泰 , 「フッ素化ペンタセンのトランジスタ特性と新しいデバイス展開」, 未来材料 4, 34–41 (2004).
210 研究系及び研究施設の現状 B -10)外部獲得資金
基盤研究(C ), 「有機 E L 素子のためのアモルファス性有機電子輸送材料の開発」, 鈴木敏泰 (1999年 -2000年).
基盤研究(B )(展開), 「フッ素化フェニレン化合物の有機 E L ディスプレーへの実用化研究」, 鈴木敏泰 (2000年 -2001年). 基盤研究(B )(一般), 「有機トランジスタのための n型半導体の開発」, 鈴木敏泰 (2002年 -2003年).
C ) 研究活動の課題と展望
最近,次世代の有機電子材料として「単一分子素子」や「ナノワイヤー」等のキーワードで表される分野に注目が集まってい る。S PM技術の急速な発展により,単一分子メモリ,単一分子発光素子,単一分子ダイオード,単一分子トランジスタなど基 礎研究が現実的なものとなってきた。一個の分子に機能をもたせるためには,従来のバルクによる素子とは異なった分子設 計が必要である。計測グループとの密接な共同研究により,この新しい分野に合成化学者として貢献していきたい。現在行っ ている有機半導体の開発は,単一分子素子研究の基礎知識として役立つものと信じている。